世間に作品を広めるための仕掛けも含めて“アート”
右の憂いを湛えたショートカットの女性のトルソーと、左のおちんちんが付いた可愛らしい子犬の立像。パッと見でどちらも同じ彫刻家の手によるものだとは、誰が気付くだろうか。ともに作者は田島享央己氏。「40代まで暗がりを生きる羽虫のような生活だった」と嘯くが、今や展覧会を開けばオープン待ちの行列ができるほど一躍人気の現代美術作家として脚光を浴びている人物だ。美大を出たとしても、彫刻家として生計を立てられるのはほんのひと握りという狭き門のなか、何故田島氏がその門をくぐるチケットを得たのか。ポップアートとファインアートの垣根を自由に飛び越えながら、美術界をかき回している張本人のアトリエに足を運んで話を聞いた。

「ファインアートだけでなく、ポップでふざけたものも作るので“振り幅が凄いね”とはよく言われます。それは本音で褒めてくれている時もあれば、悪い意味で言われることもある。だけど、私としては両方やるのが当たり前のことでした。フォルムは違うかもしれないけれど、基本的には自分のなかでは変わらないものなので、だから振り幅の凄さを言及されても実はピンと来ていないんです」。
分かっている範囲だけでも5代続く仏師の家系にあたる由緒正しい彫刻一家に生まれ、幼少期から出入りしていた父のアトリエを引き継いで制作を続けている田島氏。いかにも生真面目で正統派の芸術作品を作りそうなプロフィールだが、何故その両極端な作風を作るようになったのだろうか。
「本当は誰も欲しがらないような、トンがった美術や芸術を作りたい。だけど誰も作品を欲しがらなければ、生活費を別口で稼ぎながら制作を続けるしかない。美術の先生をしながら制作を続ける生き方の人もいるけれど、自分は作品作り以外のことはできないしバイトも長続きしないから、作品を誰かに買ってもらうしかお米を買って家賃を払う手立てが無い。若い時に彫刻家になると決めてから、個展をやって安い値段で売ることを繰り返してきて、100時間以上かけた作品をヤフオクで到底納得できない値段で売ったこともある。だから常に世の中の人が求めるものと、自分が作りたいものをいかにして高い次元で一致させるかという調整を常に意識しています」。