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CULTURE

職人紀行 第一回 奥山 武(福禄寿)

日本カルチャー紀行

2021.11.09

職人紀行 第一回 奥山 武(福禄寿)

もの作りの裏側には必ず腕の立つ職人がいるものだ。彼らの多くは黙々と手を動かすのみで、自ら語ることもなければ表舞台に出ることを好まない人も多い。しかし彼ら職人がいなければ、デザイナーの脳裏に沸いたインスピレーションが形になることもなければ、クリエイターの発想が世に出ることもない。世相が混迷を極める今こそ、ファッションや伝統文化、そして明日の未来を支える職人の話に耳を傾けたい。

direction by SATOSHI MORIYA photography by FUMIHITO ISHII text by SHUNSUKE HIROTA

「1足のブーツと出会って、カスタムの可能性に目覚めた」

最初は勤め先の修理工場と自分の店という二足のわらじを履きながら、仲間内のブーツ修理を行う店として福禄寿はスタート。02年には独立し、本格的に始動した。しかし当時は今と同じくスニーカーブームであり、ブーツにとっては冬の時代。ブーツ修理という概念すら、まだ普及していなかった時代だ。

「オープンした頃はまったくお客さんが来なくて“電話線、ちゃんと繋がってんのか”と疑って何回も自分で店に電話をかけて試したぐらい(笑)。当時はスニーカーが流行っていたけど、GMの村上淳さんやウルフズヘッドの幹田さんがウエスコのボスを2トーンのヴァンプでオーダーしたブーツを履いていて、すごくカッコ良かったんです。だけど当時は金も無かったから、10万円近くするブーツなんて到底買えなかったんですが、たまたまクレープソールを付けたボスが9000円位で投げ売りされていたのを見つけて、手に入れて履いていたんです。このボスと出会ったのが、自分にとってひとつの転機ですね」。

今ではクレープソール付きのエンジニアといえば当たり前になったが、当時は言わば飛び道具的な変わり種ブーツ。奥山氏がそのボスを履いていると、周囲のバイカーたちから散々にバカにされたという。

「周りの友人は“変だ、変だ”と言っていましたが、自分は気に入っていました。自分のバイクはロッカークラッチなんで、ヒール付きのソールよりクレープソールのほうが操作しやすかったんです。自分にとって重要なのは見た目が良いとか悪いではなくて、機能美なんですよ。それに見た目が悪い靴ってだいたい履きにくいし、履きやすい靴ってやっぱりカッコ良い。自分のやりたいことはコレなんだ、と気付かされました」。

そのボスとの出会いによってソールの選択次第でブーツは見た目だけでなく機能や履き心地までガラリと変わることに気付いた奥山氏は、福禄寿でもソールのカスタマイズを積極的に提唱するようになる。

「レッドウィングのエンジニアにクレープソールをつけたりビブラムの#100をつけたりしているうちに、バイカーの間で“レッドウィングをウエスコみたいにカスタムしてくれる店がある”や“ウエスコの修理がうまい店がある”と話題になり始め、だんだんお客が来るようになりました。当時はウエスコの修理は接着のみで、アウトステッチをかけて修理する店は存在しなかったんです。福禄寿では分厚いソールを縫えるラピッドE317を入手して、ウエスコの修理にも対応したのが、バイカーたちから人気になった理由です」。

出し縫いに使用するラピッドE。「#100やダブルミッドなど厚いソールはこのミシン以外では縫えません」。

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