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CULTURE

職人紀行 第一回 奥山 武(福禄寿)

日本カルチャー紀行

2021.11.09

職人紀行 第一回 奥山 武(福禄寿)

もの作りの裏側には必ず腕の立つ職人がいるものだ。彼らの多くは黙々と手を動かすのみで、自ら語ることもなければ表舞台に出ることを好まない人も多い。しかし彼ら職人がいなければ、デザイナーの脳裏に沸いたインスピレーションが形になることもなければ、クリエイターの発想が世に出ることもない。世相が混迷を極める今こそ、ファッションや伝統文化、そして明日の未来を支える職人の話に耳を傾けたい。

direction by SATOSHI MORIYA photography by FUMIHITO ISHII text by SHUNSUKE HIROTA

「いつか自分で靴を作るために修理の方法から学び始めた」

ブーツ好きはもちろん、国内の服飾関係者なら一度はその名を聞いたことがある名店がある。浅草に工房を構える福禄寿だ。福禄寿はブーツ専門のカスタム&リペアショップの先駆けであり、代表の奥山武氏は数々の国内ブーツブランドの底付けを行う他、レッドウィングの公式リペアファクトリーのひとつとして活動するなど、メーカーからの信頼も厚い職人だ。靴修理業界のキーパーソンである奥山氏だが、2019年に突如としてオリジナルのブーツブランド、キーストーンを立ち上げた。

なぜ靴修理の職人が、靴そのものを作ったのか。福禄寿に足を運び、奥山氏から話を伺った。

鮨屋の息子として産まれ、職人仕事に憧れていた奥山氏が、革靴好きが嵩じて靴職人を目指したのは19歳の時。東京に行けばなんとかなるだろうと思い、上京したという。

「当時は製靴学校の存在も知らなかった。ただ、靴の修理屋は雑誌などで見かけて知っていたため、とりあえず靴の構造を調べるには修理屋になることだと思い、修理工場に就職することにしました」。

もともと靴を作りたくて、その前段階として修理を学ぶことにしたという奥山氏。なんとも遠大な計画だが、いずれにせよ奥山氏は職人の道を歩み始める。

「その工場はブーツに限らず、婦人物の靴からスニーカー、ドレスシューズまで何でも直すところ。オールソール交換(靴底をすべて交換すること)はもちろん、よそで断られたような厄介な修理が持ち込まれるところでしたね」。

足の踏み場がないほど所狭しとブーツが並べられた福禄寿の店内。10代の頃から奥山氏が収集してきた資料であり、貴重なヴィンテージピースも多数含まれている。

工場で働きながら修理技術を身に付けるにつれて、奥山氏は生来の凝り性とブーツ愛を発揮するようになる。まずは修理に使用するソールの部材にこだわり始めたのだ。

「その頃に日本で流通しているビブラムソールはイタリア製だけで、アメリカ製は無かった。だけどアメリカ製のブーツを直すなら、やはりUSビブラムがいい。それで“ワークブーツの修理用にUSビブラムのソールを入れてくれ”と会社に頼んだんですが受け入れてもらえなかった。それで自分でUSビブラムで輸入し、それを使って修理をする店を開きました」。

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