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CULTURE

VibratioNote Vol.36 by 田中凜太郎

VibratioNote

2021.11.09

VibratioNote Vol.36 by 田中凜太郎

今月のモデルは、2年ぶりの再会となったミュージシャンのブランドン・ウェルチェスさん、そして恋人のケイト・クローバーさんです。ブランドンさんは「〈リザード〉をはじめ、日本の1970年代後半~1980年代初頭のパンク・ムーヴメントが大好き」らしく、撮影中に話が盛り上がりました。日本のロック史を知っているアメリカ人は滅多にいないと思いきや、最近はYouTube等の便利性も相まって、世界的に「日本の昭和ロック」が再評価されつつあるようです。面白い時代になってきましたね

Text & Editorial Photography by Rin Tanaka
Courtesy of Kate Clover, Brandon Welchez

当時の〈二郎〉は滅多に会話をしないムスっとしたお父さんと、逆に物凄く愛想の良いお母さんの2人で切り盛りする夫婦経営の小さな店で、座席数は10席前後。「慶應の学生さんに大盛りのラーメンを安い値段で提供しよう」(普通サイズで320円くらい)という、「学生のためのラーメン屋」でした。ただし学生がターゲットなので朝11時頃に開店し、麺が売り切れる昼の3時には閉店。そして土日は休業。そのため、平時の昼になると「1時間待ち」の行列ができたのです。当時、日本中探しても「1時間待ちのラーメン屋」はほぼなく、東京のラーメン・マニアの間で噂になり始めていました。

話を戻しましょう。〈二郎〉を食べた後は授業をサボって町に繰り出すのが僕ら落ちこぼれグループの習慣で、古着屋と中古レコード屋へよく行きましたね。確かあの日は小林くんが「少し歩くけど、隣町の蒲田に〈エトセトラ・レコード〉というマニアックな中古店がある」と言うので、大森駅を出て、国道1号線を歩き出したのです。

〈エトセトラ〉は当時都内に何店舗も支店を持つまぁまぁ大きなチェーン店で、しかもレアな邦楽レコードを得意としていました。そしてあの日は何と、〈アナーキー〉の『ファースト』を発見! しかも2000円という格安な値段で、思わず小林君に向かってガッツポーズをしましたよ。何せ2年以上探していた超レア盤でしたから。

僕が〈アナーキー〉が好きだった理由は、最初は確かにやんちゃなパンク・バンドでしたが、アルバムを出すたびにどんどん演奏が上達し、当時の東京ではトップ・レベルの演奏力を誇っていたことです。僕が初めてライブを観た頃は既にバンド名が〈ロックバンド〉に変わっていましたが、演奏はさらにソリッドでクールさを増強。特にギターの藤沼伸一さんの演奏が最高で、「パンク少年よ、大人になったらブルースを聴け!」と彼から教わった気がします。

高校時代に〈二郎〉に通った数は30回前後でしょうか。そして一緒に授業をサボった仲間は僕も含め、全員「浪人生」となりました。その後、僕はなんとか一浪で慶應大学に入学し、三田キャンパスに移動する3年生以降を楽しみにしていました。しかし久しぶりに田町駅へ戻った1993年頃には道路拡張によって〈二郎〉の立ち退きが決定。僕にとって〈アナーキー〉や〈ラーメン二郎〉は、強烈なインパクトを残したまま「昭和」と共に消えてしまったのです。

ロックとは何か?│これは基本的にサウンドの話をしていますが、音楽と関係ない世界にも「ロックな生き方」があることを大人になって教わるようになりました。〈二郎〉はまさにその好例で、51歳になった今でもあれほど衝撃的なラーメンに遭遇していません。しかもあの強烈なとんこつラーメンを考えたのが、無口なお父さんと愛想の良いお母さんだったという意外性も最高でした。ただし老夫婦の作るラーメンが「物凄く愛のある味だった」ことは間違いないでしょう。結局は、「愛があるか、ないか」— いつもそこにたどり着いてしまうのが、「ロック」とは何か?」の答えかもしれません。(次号に続く)

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